たとえばこんな話 その3

「最寄り駅に向かう途中で前を歩いていたOLらしきオネーチャンの
 スカートのすそから糸が1本てれっとぶらさがっていた」

この現象から広げられる妄想を大風呂敷もかくやの勢いで広げてみるPART3。

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「あの・・・スカートのスソほつれてますよ?」
突然知らない女性に声をかけられ、驚いた表情で振り向く彼女。
「えっ」
慌ててキョロキョロと視線を這わせるが、まだ気づかない。
急いでいるようであったので、小声でほつれ箇所も教えてあげることにした。
「左足の裏側のあたり・・」
「えっ」
「コレです」
糸に向かって手をのばそうとしたそのとき。
「キャー!!触っちゃダメ!」
恐怖に顔を引きつらせ、横っ飛びに身を引いて逃れる彼女。
「え?」
「ここここの糸を引くと大変なことが・・・・・」
とりみだしつつも威厳をにじませた口調をとりもどした彼女は続ける。
「これは国家機密にかかわる重大なプロジェクトの一環なんです」
「はあ?」
「とにかく、これ以上私にかまわないでください。失礼」
・・・なんだそれ。せっかく人が親切に声をかけてあげたのに。
ちょっとムカついたので、立ち去る彼女の背後から件の糸に手をのばし、

つん、と引っぱってみた。


・・・何も起こらない。

なーんだ。デンパ女か。ちょっとドキドキしちゃったじゃんか。
すっかりがっかりして駅へむかう。
駅前は、ファッションビルの巨大モニターを見上げる人々で大混雑していた。
朝の主婦向け番組の時間だが、ニュース速報にとってかわられている。
「・・・ただ今入りました情報によりますと、
 U国南部の軍事関連施設が何者かにより爆破され・・・」

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必要以上に杜撰な場所に
必要以上に精密なスイッチ。

開発者そうとう切れ者なんだろうけどあたま悪いよなあ。

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たとえばこんな話 その2

「最寄り駅に向かう途中で前を歩いていたOLらしきオネーチャンの
 スカートのすそから糸が1本てれっとぶらさがっていた」

この現象から広げられる妄想を大風呂敷もかくやの勢いで広げてみるPART2。

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あの・・・スカートのスソほつれてますよ?」
突然知らない女性に声をかけられ、驚いた表情で振り向く彼女。
「えっ」
慌ててキョロキョロと視線を這わせるが、まだ気づかない。
急いでいるようであったので、小声でほつれ箇所も教えてあげることにした。
「左足の裏側のあたり・・」
「あっ、これかぁ! なあんだ。心配して損しちゃった」
「え??」
「知らないの?今これはやってるのよ」
えええ?まさか!?と思って道行く女性を見てみると
もれなく、糸をてれんとたらして歩いているのだった。
「ひゃー・・・」
「それじゃ」
あっけにとられている私を残し、去っていく彼女。
「・・・もう若くないってことかあ・・・」

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・・・・・・・・・・・・・・・さみしすぎ。

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たとえばこんな話 その1

「最寄り駅に向かう途中で前を歩いていたOLらしきオネーチャンの
 スカートのすそから糸が1本てれっとぶらさがっていた」

この現象から広げられる妄想を大風呂敷もかくやの勢いで広げてみるPART1。

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後ろからそっと近づいてなんとか糸をつかみ、
そのままオネーチャンと逆方向に全力疾走。
失敗作のセーターをほどくときのように
スルスルと少しずつ、しかし確実にほどけていくスカート。
「あれ?なんか寒い・・・」
視線を落とすOL。
しかし膝上のほくろがちらりと見え出したことに彼女はまだ気づかない。
そのまま改札を抜け、ホームへ。
ちょうど滑り込んできた快速電車に乗り込む彼女。
扉が閉まる。ゆっくりと加速してゆく快速電車。
糸が這い登るスピードも負けじと加速度をまし、いまや膝上のほくろは全開、
前日にオフィスの机の角にぶつけてつくった太もも中央の青アザまでこんにちわ。
「え・・・えっ?えええっ??」
満員、と表現するにはちょっと微妙?程度に混みあった車両内の
睡眠中&音楽鑑賞中の人間をのぞくすべての視線が彼女につき刺さる。
が、我が身に突然ふりかかった危機にパニック状態の彼女は
自分が車両中の注目の的になってることにまだ気づいてはいない。
「イヤー!!ちっちょっと・・・えええーナニこれやだあー!もう!えー???」
淀みなく容赦なく上昇しつづける糸。
「おほっ」
人垣の間から頭を突き出すように覗き込んでいた中年オヤジが
堪えきれず嬉しげな吐息をもらし
彼女はやっと、自分が衆人環視の中で立派なさらし者になっている事実に気づく。
「きゃー!!いやー!!」
思わずしゃがみこむ彼女。
おそるおそる周囲を見回すと、全員の視線が自分の後ろに集まっている。
「・・・・・・・・・・・・・!!」
スカートのスソから半円形にはみ出した鮮やかなピンク。
冷え性対策にはいていた毛糸のパンツであった。
すでにスソが股下10センチほどのところまでせりあがってきていたスカートでは
彼女の尻全体を覆い隠すことはできなかったのだ。
「や~だ~!もうっ!!」
首筋まで真っ赤になりながら彼女はハンドバッグではみ出た毛糸パンツを隠す。
降りたくても次の駅まではまだ間がある。
快速電車に乗ってしまったことを心底呪いながら涙する彼女。
その間も糸はじりじりと終点に向かって這い上がってゆく。
そのとき。
『ぷちっ』
追い詰められた彼女の耳に、なにかがはぜたような音がとびこんできた。
反射的に振り向くと、そこには断ち切られた糸の切れ端と
万能ナイフを手にした学生服姿の若者が。
安堵のあまり放心状態の彼女の肩に、脱いだジャケットをそっとあてがう若者。
「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・」
彼女の頬を新たな涙がつたう。
あたたかな空気に包まれる車両内。
彼女にそっとハンカチを差し出す子供。もらい泣きをする老婦人。
「ちっ、もう少しだったのに」
空気を読めない中年男に冷ややかな視線が浴びせられる。
いまや車両内の人間のほとんどが彼女の味方だった。
「え~まもなく~○○~○○です」
和やかムードを後押しするかのごとく響き渡る車内アナウンス。
ゆっくりとホームに滑り込む快速電車。
彼女は若者の手をかりて立ち上がり、扉の前に立つ。
「○○~○○に到着で~す」
扉が開く。
ホームに降り立つ彼女を拍手で見送る車両内の人々。
彼女は彼らに向かって一礼し、若者とともに去ってゆく。
この小さな事件を通して生まれた勇気と強さを胸に。

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・・・・・・・・・・・・・・一見おもしろそうだが、
やはり糸を引っ張る人間がその場に居合わせられない、というのが最大のネック。

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